海に囲まれつつ日本が海洋国家にならなかった訳
- 2009/11/26 01:18
- カテゴリー:社会問題
僕は海が好きです。
舟も好きだし、潜るのも好き。
なんとなく、海を眺めているだけでも心が平穏になる。
ずっと以前からなんとなく考えていたことなのですが、日本は海に囲まれているのに海洋国家にはならなかったのは何故だろうか?という素朴な疑問がありました。
このところ、ヨット乗りの方の書いた本や、海難事故から生還された方々の書いた本を数冊読んでいる中で、なんとなくその理由がわかったような気がします。
ここでいう海洋国家というのは昭和の時代に造船大国と呼ばれていたのとは別の話です。
この国にとって黒船が日本に来るまで、太平洋の先は地の果てだった。
そもそもこの国の造船の考え方は外洋に出ることを想定して作り始めたのは近現代からで、それまでは入江の中や沿岸での戦いを有利に進める為のもの、程度の話であった。(毛利水軍やもっと古くは雑賀の舟鉄砲などかな?)
遣唐使として日本海を渡ったとか、倭寇として朝鮮半島まで行ったとかが、せいぜいで、その先の新天地を目指すという発想自体はあまりなかった。
なんで?
中世ヨーロッパでは大きな帆船を造り、外洋を目指した。
ジパングなんていう言葉がまだ伝わっていない頃から、アフリカ沿岸各所に拠点を作り、少しずつ遠くの海を目指して冒険していた。
いわゆる、大航海時代だ。
見知らぬ土地の特産物を持ち帰ると巨万の富が得られたらしい。
当時の日本人も、同じように中国沿岸に拠点を作りつつ、ベトナムなどの東南アジアに足を延ばすことは考えなかったのだろうか?
マレーシアをまわってインドに辿り着いていたら、日本の歴史は変わっていただろう。
日本人は冒険心がなかった?
日本人は技術力が足りなかった?
日本人は海が嫌いだった?
んーー。どれも違うような気がする。
なるほど、と思ったのは、あるヨットマンの言葉。
「地中海は池であり、大西洋は川である。そして太平洋が海だ。」というものであり、その感覚がヨーロッパの人々の感覚でもあるようだ。
池であれば、初心者もヨットの練習はしやすい。
そこは池のようにおだやかな地中海。
操船技術を覚えながら、ぽかぽか陽気の地中海の島々を巡ることができる。
想像するだけで、楽しそうだ。
ある程度、操船技術が上達したら、大西洋に挑戦する。
大西洋はアフリカ大陸とアメリカ大陸の隙間にある細長い海である。
太古、地球には一つの大陸しかなかった頃、大陸に大きな裂け目ができた。
それが今の大西洋である。
大西洋でヨットが転覆沈没し、救命ボートで漂流し、生還したスティーブンキャラハン氏の漂流記が翻訳されている。
その本によると、キャラハン氏は、相当なサバイバル知識と強靭な精神力を持っていたとはいえ、漂流中に10回近く船を見かけ75日後には陸地が見えるところまで流れ着いている。
そして、その翌日、漂流76日目に漁船に救助された。
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一方、太平洋での遭難は孤独なものが多く、かつ、生存者も少ない。
外洋ヨットレースに参加して、天候の悪化が原因で転覆、沈没した「たか号」から生還した佐野さんの記録は壮絶だ。
転覆した時点で緊急避難用のゴムボートに乗り込んだのは6名。
27日後、生還したのは、佐野さんただ一人。
生死を分けたのは必ずしも地形だけではないが、大西洋の遭難とは難易度が違うことは明らかだ。
たった一人の生還―「たか号」漂流二十七日間の闘い (新潮文庫)
新島から流されたダイバーは銚子沖東南東63kmの地点で奇跡的にマグロ漁船に発見され救出された。
彼は230kmを3日間漂流していたのだが、この地点を通過してしまったら、恐らく船も通らない沖合いに潮と共に流され、発見されなかっただろうと言われている。(彼へのインタビュー記録では精神の均衡を保ちながら漂流を続けることの困難さが良くわかる。話が脱線。)
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キャラハン氏の例でも明らかなように、大西洋では流されていても、陸地や航路に辿り着く可能性は太平洋に比べたら圧倒的に高いのだ。
ヨーロッパからアフリカ各地へは、大航海時代からの航路があり、新大陸であるアメリカ大陸へもヨーロッパからは各種の船便が出ている。
中南米やカリブ海への航路もあれば、喜望峰を回る航路もある。
それに引き替え、太平洋での航路は少ないため、漂流者が航路にさしかかる可能性も圧倒的に低い。
また、太平洋は、ただ流され続けて数週間以内に陸地に辿り着く可能性は、ほぼ皆無に近い。
地形の問題だけでなく、天候も大きく違う。
地中海の夏は10日中、10日は晴れて穏やかな天気らしい。(いぃなー。)
それに引き替え、日本周辺では海況が良いのは3日に1日とか、5日に1日とかと言われている。
平均気温や水温が最も高い夏から秋にかけても、台風が多数発生し、海況は決して良いとは言えない。
言ってみれば、太平洋は上級者にだけクルーズが許される、難易度の高い海なのだ。
そんな海で最初から練習せざるを得ないとなると、命を落とす確率がはるかに増す。言ってみれば、練習が練習にならない。いきなり本番だ。
沿岸や入江だけでは、外洋航海の経験値はなかなか増えないのだからつらい。
しかし、いざ、外洋に出ると過酷な太平洋が待っている。
スキーの初心者をいきなり上級者コースで来る日も来る日も練習させるのと同じだろう。
泳げない人を、急流の川に放り込むのと同じようなものかもしれない。
そら、へこむし、つらいわな。
っつーことで、日本は海洋国家にはなり得なかったのではないか?と思うのでした。
でも、やっぱ僕は外洋クルーザーで南の島に行くのは夢だったりしますねー。