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減圧症のメカニズムと安全停止の有効性

先日、ダイビング関係のセミナーなるものを受講してきました。
テーマは「安全停止のなぜを覗く」というもの。
http://seminar.jaus.jp/

安全停止ってなに?
ダイバーの方なら誰でもご存知の安全停止。
これは、ダイビングの終了間際に水深5m程度の浅いところで、3分間停止して、水圧で体の中に溶け込んだ窒素などのガスを対外に少しでも排出し、その後、水面上に浮上するというものです。

なぜ、こんなにまどろっこしいことをするのか?
一言で言ってしまえば「減圧症の予防」のためです。
ダイバーにとって最も怖いのは、急浮上です。
なぜ、急浮上が怖いかというと減圧症になってしまうから。

水の中で圧力を受けている状態で呼吸していると、水圧と同じ圧力のかかった空気を吸っているわけです。そうすると体内のあらゆる組織に空気の成分である窒素などのガスが溶け込んでいきます。
その後、浮上すると圧力が下がるわけで、体中の組織に圧力で溶け込んだガスは気化しようとするわけですね。
炭酸飲料のペットボトルの蓋を開けるのと同じことが体の中で起きます。


するってーと、体中に溶け込んだガスが気化して泡になる。
これが、小さい泡で静脈血が肺に運んで自然に排出されればよいのですが、大きな泡になったり多量の泡になったりすると、体中のあちこちで不具合が発生するわけです。

そらそーですよね。
体中のあちこちに泡ができたらその回りの組織は破壊されたりするわけで。

血管の中で大きな泡ができたら、血管は詰まってしまう。
皮膚の内側で泡ができると発疹になったり、かゆくなったりする。
脳の中で気泡ができたら、脳の組織は大きなダメージを受ける。
影響を受ける組織によって、症状はいろいろです。
関節とか筋肉の組織の中で泡が悪さをしたり、脊髄や神経に影響するのとでは当然違った症状になるわけです。

では、それを防ぐ為にどうするか?
基本的にはゆっくり圧力を下げていけばよい。
よく振った缶ビールでも、プルトップを一気に開けないで、ちょこっとずつ空気を入れて休み休み開けると噴出さないのと同じ。

人の体は缶ビールよりもうまいこと出来ていて、体中の毒素とか不要なものは血液が洗い流してくれる。
静脈血に混じって洗い流されるわけですね。
毒素なら肝臓とかで分解され、腎臓で尿が作られ体から排出される。
小さな泡となった窒素は、肺の毛細血管から対外に放出される。

だから、大きな泡が体内に発生しないようにゆっくり上がれば(圧力を下げれば)よい。
肺から排出する以上の速さで、体中に泡ができてしまうと、体内にドンドン泡が溜まってしまうので、排出する方が多いスピードで、ゆっくりゆっくり浮上していく。
その一環として考え出されたのが安全停止。
究極の「ゆっくり」は「止まる」ですからねー。

目の前に海面が見えるところで、サクッと浮上せず、圧力のかかった状態で体の中の泡をより放出しようという試みが「安全停止」です。
ダイビングの最後には「5mで3分間の安全停止をする」というのは、レジャーダイバーの中では常識になっているのですが、この医学的、科学的根拠ってどうなの?というのが今回のセミナーのテーマでした。

ルールとして守っているという人が多いと思いますが、どんな時に有効でどんな効果があるの?というところを、明確に説明できる人は少ないのではないでしょうか?

世界の科学者の減圧理論とか、アメリカ海軍の調査データとかはここでは説明しませんが、基本的な考え方は下記のとおり。

減圧症を防ぐ為のアプローチは二つ。
・体に溶け込むガスの総量を減らす。
・体に溶け込んだガスを多量の泡や大きな泡にしない。

どっちかしかないわけですね。
溶け込ませないか?無理なく排出させるか?のどちらか。



溶け込ませない方法も色々あります。
・なるべく浅いダイビングをする
・なるべく短いダイビングをする
(ヘリウムが体に溶けにくい特性を活かして、空気に含まれる窒素をヘリウムに置き換えてた特殊なボンベで潜水するとか、様々な方法がありますが、一般的ではないのでここでは割愛します。)
※注

上の二つの考え方を元にダイビング計画を立てます。

例えば、Aというスポットは25mのところに面白い地形がある。
最初に25mまで一気に潜って、そこで10分間過ごし、その後、北側の15mのB地点を経由して、最後はC地点で5~10mのところにあるサンゴ礁を観察して、安全停止後、浮上する、とか。
「25mでは10分間だけ」と制限するのが「体に窒素を必要以上取り込まない為の計画」になるわけです。
(ダイビングテーブルとか、ダイブコンピュータというのは、○mに○分いるとどれだけ体内にガスが蓄積するか?を計算してくれるものです。)

最初に深いところに行けば、その後、浅いところで少しずつ排出されるので、深いところを最初の方に計画するのがセオリーです。
ダイビングの後半で深いところに行く計画を立てると、浮上はどうしても一気に浮上する計画になりがちですので、そうすると危険度の高いダイビングになってしまいます。
だから、1本のダイビングなら最初に、1日のダイビングなら最初の1本に、深いところを計画するわけですね。

ただ、どんなに計画したって、ガスを少なくすることはできても、ゼロにはできない。
であれば、今度はそれをどうやって効率よく安全に排出するのか?という話です。
体内で、排出できない程の大きさの泡ができない様するにはどうしたらよいのか?という話になります。

これも二つの方法がある。
・ゆっくり浮上する
・途中で浮上を停止してガスの排出を待つ
(浮上途中で高濃度酸素を使用することで窒素の排出を早めるという方法もありますが、テクニカルダイビングの世界の話であり、一般的ではないのでここでは割愛します。酸素中毒の危険がありますので良い子は真似しないでくださいねー♪)

二つと言っても言っていることは一緒ですね。
「ゆっくり」をより強くしていくと「停止」するわけで。

最近ではディープストップという言葉がありまして、先ほどから説明している「安全停止」の深さに辿りつく前に、何段階かの深さで停止して段々と上がっていこうという考え方です。

難しいもので、人間の体って均一ではないんですよね。
組織によって、ガスが早く溶け込みやすい組織もあれば、ゆっくり溶け込み、ゆっくり排出する組織もある。
早く解ける組織に対しては「安全停止」が有効で、遅く解ける組織には「ディープストップ」が有効です。

そんなことを考慮に入れ始めると話はややっこしくなります。
その日や前日のダイビングのプランによっても有効な方法は変わってくるわけで。。。

話が複雑になるので、ここでは基本の話だけにとどめます。
その辺の話をより詳しく知りたい方は、ダイバー向けに日記を書いていますので↓こちら↓にどうぞ。
http://www.moemonya.com/owner/owner.html
(2011/09/29の日記)

ま、減圧症予防の基本的な考え方は、体内に取り込むガスを最小にする、ということと、急激に大きな泡を作らないで、体がダメージを受けない細かい泡で排出すること、が大事です。

今回のセミナーテーマの「安全停止」について、結局、ある潜水パターンに対して有効ではあるが、細かい数値設定については科学的な裏付けは不十分、という話でした。
でも、現実の世界では一定の効果を発揮しているよねー、というのが、講師の方を含めた業界の方々の見解でしたが。

だって、安全停止というもの自体がなければ、シュポーンと海面に浮上しちゃう人もいるかもしれないけど、一旦、海面の目の前で止まることで、少なくとも急浮上はそれなりに抑制されているだろうし、深く短い潜水パターンが多い昨今では、科学的にも効果があるであろう、という話でした。

知れば知るほど、疑問が増えていく。
どんな世界もそうかも知れませんが、知識欲は広がっていきます。

※注
ヘリウムは浅い潜水や短い潜水では空気よりも減圧時間が長くなることがあります。大深度潜水では窒素酔いの対策としてヘリウムが利用されることがありますが、必ずしも体内に溶け込みづらいものではありませんでした。失礼しました。
須賀さんご指摘ありがとうございました! 2011/09/29修正

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野尻湖クリーンダイブ紀行

先日の土日で長野県の野尻湖のクリーンダイビングに参加してきました。
文字通り、湖底を清掃するダイビングです。

主催は社団法人 レジャー・スポーツダイビング産業協会(以下JRDA)という団体で、ここ数年の過去実績では年15回から20回余りのクリーンダイブを実施しているようです。
先日、この団体を知り、サポーターとして入会。(よく一緒に潜るバディの紹介です)
今回の野尻湖クリーンダイブに初めて参加してきましたのでリポートします。
(ナウマン像の化石が発見された野尻湖ですが、今回は発掘ツアーではありませんでした。残念!)


通常は現地集合、現地解散らしいのですが、東京から野尻湖は遠い!ということで、品川からの送迎バスが用意されていました。
参加者は朝7時半に品川駅に集合して、あとは観光バスでくつろいでいる間に野尻湖に到着!

ファイル 112-4.jpg

ちょうど台風が来ているということもあって、道はガラガラ。
今回の台風は大型で強い勢力ということもあり、関西方面では大きな被害が出ていました。
そんな大きな台風が来ていても湖は割りと静か。時折、さざなみが立つ程度です。
(海はうねりがひどく、かなり離れた海域でもクローズになっていた様ですが、海況不良の際は湖でのダイビングというのも良いかもしれませんね。ただ、漁業権の関係で潜れるスポットは少ないですが。)

野尻湖にはお昼ごろ到着。
着いたら、まずは腹ごしらえ。お宿で昼食を取りました。
その後、タンクとウェイト、ヘルメットが貸し出されて、小雨の降る中、器材準備を行う。

淡水ダイビングはご存知のとおり、浮力が海水より小さいため、ウェイトは少なくて済む。
私の場合、体脂肪率は高いのだが、ウェットスーツが古くペシャンコ(涙)なので、淡水の場合はウェイトなしで潜れる(笑)身軽で楽チンなのだ。

ブリーフィング後、船へ乗り込む。
地元漁協の全面協力の下、地元のテレビ局の取材なども来ていました。

ファイル 112-5.jpg

漁協の船で清掃ポイントまで移動。
水深は5~10m程度。潜水時間は40分程度を目安として最大でも1時間。透明度は5m程度と割と良いので、リラックスして潜れそうです。

開催場所によっては10~50cm程度の透明度ということもあるそうで、その場合は、バディとの連携は困難になる。
10cmというと、私も以前経験がありますが、自分のダイコンの表示を見るのも困難です。
ゲージなんか、マスクにくっつけてライトを当てないと見えないし。
上下左右もわからないので、泡の行方を追って上下を知ることになる。(ま、ナイトダイビングもおんなじですが。)
そんなダイビングでは、各自「自分の身を自分で守れる人」というダイビングスキルレベルが参加条件となってくる。

潜ってみると、湖底にはソフトルアーが多い。(野尻湖はバス釣りのポイントです。)
そこかしこに白いウネウネとした巨大な幼虫みたいのが落ちている。
頭にジグヘッドが付いているものはその重さで湖底から白い幼虫が生えている様に見える。
異様な風景だ。

拾う、拾う、ゴミを拾う。
空き缶、空き瓶、ソフトルアー、ソフトルアー、空き缶、ソフトルアー、拾う、拾う。
ペットボトルは思いのほか少ない。水に浮くからかもしれない。

大きなものでは古タイヤが多い。
湖底と言っても、浅場の岸や船着場周辺にあるわ、あるわ。
2日間で全体で40本以上引き上げたのではなかろうか。

ファイル 112-1.jpg

どこの湖でも似ているところが多いと思うが、湖底は泥である。
フィンキックで巻き上げちゃうと視界はあっという間にゼロになる。
ましてや着底してしまうと泥が大きく巻き上がる。

海であれば流れがあるので、しばらく待っていると視界は晴れてくるが、湖は流れがないため、一度、泥が巻き上がってしまうと、ちょっとやそっとでは視界は晴れない。
なので、巻き上げないことが大事。
自分も困るし、周りの仲間を危険に陥れることにもなってしまう。

ということでどうするか?というと、フィンキックは基本は「あおり足」。
湖底周辺でバタ足をしてしまうとどうしても巻き上がってしまうので、ひざを曲げて足を上に突き出すかたちであおり足をする。
前後、左右への移動はこれでOK!

前後左右よりも、上下の移動が泥を巻き上げやすい。
なので、上下移動は浮力を使って調整するのが一番良い。
中性浮力(無重力みたいな感じ)を取っていて、息を吸えば上に上がっていくし、息を吐くと沈んでいく。
その加減で上下の調整をするのが巻き上げ防止には一番良い。ゴミ拾いと一言に言っても、奥が深いのだ(笑)

面白いと思ったのは、常連さんとの話をしていると、皆、目がハンターなんですね。
どれだけ大物のゴミを見つけて引き上げたか?というのが一種のステータスなのだ。
こりゃ、面白い!はまります。


僕は今回、ドラム缶は見つけられなかったけど、古タイヤ数本と大型のキャンプ用折りたたみ椅子、大鍋、大型のタモ、3m位の巨大なプラスチック製ネットなどを引き上げました。
プラスチックのネットは重くて引き上げられず、陸上サポートの方からロープを受取り、湖底で巻きつけ、引き上げていただきました。

ファイル 112-2.jpg

他にも両手で持てるように取っ手の付いた大型のバッテリーも発見したのですが、結局、自分ひとりでは引き上げられず。。。
ロープを使うには桟橋から遠すぎて、BCの浮力の限界を超えており、フロートでも持っていれば持ち上がったかもしれないのだが、ナイフとライト位しか持っておらず、断念。

後で、回収したゴミを背景に記念撮影をした際、そのバッテリーが引き上げられており、悔しい気持ちになりました(涙)
次回はフロート必携です。
そのうちエアリフトなども持ち込んでやろうと密かに企んでおります。

2日間、のべ40名で引き上げたゴミは1トン弱。
ゴミを背景に記念撮影です。

ファイル 112-3.jpg

今回の交通費とか宿泊代、タンク代などをスポンサーとして負担してくださっているそうな。
日本釣振興会自体は、主に釣り関係のメーカーさんからの寄付によって成り立っているということで、ソフトルアーや釣り糸を販売した利益で、ソフトルアーや釣り糸のゴミを回収しているのでした。

JRDAの資金は、昔は水産庁からの予算があったようですが、昨今の事業仕分け?(もっと前から?)の削減要求などもあり、現在は上記のような寄付に頼っているとのことでした。

JRDAでは、あちこちの湖や海、川の清掃や、沖縄周辺では珊瑚の植苗も行っています。
興味のある方は下記Webサイトをご参照くださいませ。
http://www.diving.or.jp/

私も(俺も)サポーターになりたい、という方はこちらから申し込みができます。
http://www.blue-eco.jp/

ただし、水中でも自分のことは自分できるダイバーが条件だと思います。
ガイドのお尻ばっかり追いかけるファンダイブに飽きた方、普通のダイビングポイントに飽きた方、真っ暗で上下左右が分からない状態でもパニックにならない方が、対象になると思います。

単なるゴミ拾いと言っても、あなどれない。
いかに大物を見つけて、引き上げるのか?
面白いです!是非、ご一緒に!

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